1. 針穴に糸を通す
糸の先端を斜めにカットし、針穴に約1.5cm〜2cmほど通します。
平縫い(サドルステッチ)は、1本の糸の両端に針を付け、同じ縫い穴に両側から針を通して革を縫い合わせる、手縫いの基本です。縫い穴をそろえ、糸を傷つけないように針を通し、左右の糸を均等に引き締めて縫い進めます。
サドルステッチでは、1本の糸の両端に針を取り付けます。縫っている途中で糸が針から抜けないよう、独自の「ロック(解け防止)」を施して固定します。
糸の先端を斜めにカットし、針穴に約1.5cm〜2cmほど通します。
針穴から出た糸の胴体部分に、針先を2回刺して貫通させます(S字状に糸を縫い通した状態を作ります)。これが解け防止の「ロック」の土台となります。
長い方の糸(本線)を引っ張り、貫通させた糸の輪(ループ)を針穴の根元近くまで移動させます。
短い方の糸先(尻尾)を本線側(針穴方向)へ引き寄せ、解け防止の結び目を小さく絞り込んでいきます。
再び本線をしっかり引き込み、糸の結び目を針の胴体に近づけます。
貫通させた糸のよじれや膨らみを指先で優しく押し整え、結び目が均一できれいな形状になるように調整します。
1本の糸の反対側の端にも全く同じ手順で針を取り付けます。これで1本の糸の両端に針が付き、平縫い(サドルステッチ)を開始できる状態になります。
サドルステッチで表裏ともに美しい斜め目を揃えるためには、針の通し方だけでなく、糸を引き締める角度(ベクトル)が極めて重要です。
ルートA(表糸が下)の条件において、引き締め方向と糸の種類(平糸・丸糸)で表裏の仕上がりがどのように変化するかを検証しました。
注意穴の下角に糸同士が密着しすぎて潰れてしまい、糸の変形が生じて不揃いになりやすい。
好結果開けた穴が均一であれば糸が綺麗に下に収まるため、表裏ともに美しく揃う。
ポニーに挟んだ状態でも上方向へ安定したテンションをかけるのが難しく、平糸が潰れたり変形したりしやすい。
上向きテンションが不安定。表の穴が綺麗なら表は整うが、穴が安定しにくい裏面は糸目が乱れる。
最上級表はスペースを確保して縫えるため、平糸が革に密着して最も美しく見える。裏はストレート。
最上級菱目穴を広げつつスペースを確保できるため、表裏ともに非常に綺麗。
糸同士を潰しながら引き締める形。表は綺麗に見えても、穴が安定しにくい裏面では潰れた糸で乱れが目立つ。
表は菱目が安定していれば綺麗だが、菱目穴が乱れやすい裏面では乱れて見える。
ルートB(表糸が上)の条件において、引き締め方向と糸の種類(平糸・丸糸)で表裏の仕上がりがどのように変化するかを検証しました。
注意表は菱目独自の立体感がなくなりストレートに見える。裏は立体感が出るものの穴の乱れで糸が乱れる場所がある。
表は乱れたストレート状になり、裏は立体感が出つつも全体的に乱れやすい。
表は不揃いなストレート。裏は上向きの不安定なテンションにより立体感はあるが乱れが生じる。
注意菱目穴の形状に誘われつつもテンションが不安定なため、表裏ともに乱れてしまう。
表は立体とストレートが混在。裏の立体感は良好だが菱目穴の乱れに強く影響される。
表はストレートに見え稀に立体感が出つつ乱れる。裏は立体的に縫えるが穴の乱れで糸が乱れて見える。
表はほぼストレートに見え、裏は立体的だが穴の乱れで多少乱れが生じる。
表はストレートと立体が乱れて見え、裏は穴の乱れにめり込んで縫い目が見えにくく乱れる。
ここまでは糸がどのルートのベクトル方向で糸の挙動が変わるかを考察してきました。
本題はここからです。
3DCGの画像で一度確認してみます。進行方向は左から右。
表側で上角から下角を狙うと綺麗なのは分かります。しかし、裏を見てみましょう。
両方を比較すると、構造上「両方とも上角から下角を通す」ことは物理的に不可能です。
その結果、裏側の針は「下から上を狙わざるを得ない」という結論に行き着きます。
「表は上から下、裏は下から上」という3Dの理論値と、現実の縫い目の仕上がりを直接比較・検証します。
手縫いのレザークラフト作品を手にしたとき、その縫い目に注目したことはあるでしょうか。
一般的なミシン縫いでは、縫い目が「下から上に向かって跳ね上がる(///)」ような角度になります。一方、手縫いのサドルステッチ(平縫い)では、糸が「上から下に傾く(\\\)」きれいな斜め目(傾斜)が並ぶのが大きな特徴です。
ヨーロッパ目打ちや菱目打ちで打たれた穴に対し、丸糸で縫い進めると、写真のように表も裏も「上から下」へと美しく整然と糸が揃います。
穴の内部で糸がどのように交差し、どの位置を通っているか
を観察するために、表糸(白)と裏糸(赤)を使ったガイド線付きモデルで検証してみましょう。
ルートAでは、白い表糸が穴の「下角」を通って下に向かい、赤い裏糸は白い糸の「上」を覆うように通過します。
ルートBでは、白い表糸が赤い裏糸の「上」を跨いで通過します。
さて、冒頭で確認したピンクの丸糸の仕上がりを思い出してください。あの縫い目では、表も裏も等しく「上から下(\\\)」へ向かっていました。
しかし、断面(穴の中)を考察してみましょう。
写真を見ると**「下から来た糸が、表も裏も両方とも上に跳ね上がって出てきている」**のです。
答え合わせは有料で、、、なんてやりたいところですが、ここまでお付き合いいただいたので答え合わせ。
菱目の穴の中で糸は表の下から上へ、裏からも下から上へと跳ね上がっています。つまり、穴の中で両方の糸が上に引っ張り合って保持されるため、「次の菱目でも、表裏ともに『上』からスタートすることができる、つまり二穴目、三穴目と上から下、上から下」という構造が成り立っています。
伝統的な馬具のサドルステッチの文脈を知るプロや経験者の方からは「それは本来のサドルステッチ構造とは違うのでは?」という指摘を受けるかもしれません。しかし、極限の強度を求める馬具ではなく、仕上がりの美しさを追求する現代のレザークラフトにおいて、この「両方上から」のメカニズムこそが表裏美しい✨斜め目を生み出す鍵となっています。
ここで一つ、非常に重要な事実をお伝えしておかなければなりません。
「表裏ともに上から下へ流れる(ルートX)だけが、サドルステッチの唯一絶対の美しさではない」ということです。
たとえば、従来の「ルートAの表」が見せる凛とした傾きや、「ルートBの裏」が描くながれるようなライン。これらは物理メカニズム的に見てもルートXに劣るどころか、むしろ作品の表情として際立った美しさを誇る場合があります。
ルートA-③ 表の傾き
ルートB-③ 裏の糸のながれ
重要なのは、「どの手法が正解か」ではありません。
「糸が穴の中でどう動いているかという物理挙動を完全に理解しているか」です。
仕組みを理解していないまま途中で糸運びが変わってしまうのは、縫い目の線が途切れる「ブレ」を生み出す原因となります。
しかし、穴の中の立体構造を頭の中で思い描き、意図して糸を通すことができれば——
というように、狙い通りの美しいステッチを自在にコントロールできるようになります。
実際のレザークラフトにおいては、糸の通し方だけでなく、以下の要素が複雑に絡み合って最終的なステッチの表情を作り出します。
これらのパラメータが及ぼす影響まで語り尽くすには、ここではあまりにも時間が足りません。
だからこそ、まずはすべての基礎となる「糸の挙動を完璧に支配する手縫いの基本動作」をマスターしましょう。